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沢田家に帰宅したリボーンは、ほとんど事情を知らないままに置いてけぼりをくらっていた沢田奈々に事情のほとんどを詳しく説明した。おおらかでいて聡い彼女は、普通の人間ならば決して納得などしないであろう事実を、笑い飛ばさずに静かに聞いていた。隣に座っているビアンキは、奈々の片手をしっかりと握っていた。
沢田家の居候組――ランボとイーピン――は、フゥ太から『未来の綱吉』が怪我をしてシャマルのところへ運ばれたことを聞いており、三人とも不安そうな顔をしてリビングで身を寄せ合っていた。ビアンキは子供達の近くのソファに座ってはいたものの、彼女自身もすこし不安げに物思いにふけるように目を伏せていた。
沢田家へ帰宅したリボーンは、奈々とビアンキをソファに座らせ、その周囲にフゥ太達も座らせて話をした。子供達は大人しく最後まで話を聞いていた。途中でランボがぐずるように泣き出したのを慰めるようにフゥ太が頭を撫で、イーピンがランボの手をぎゅうっとつよく握った。
すべてを聞き終えた奈々は、静かに言った。
『それで。未来のつっくんは元気なの?』
リボーンが『元気にしているぞ』と、言うと、奈々は『よかった』と言って微笑む。泣いたり悲しんだりするかと思っていた奈々の反応が思っていたよりもあっさりとしているので、リボーンはそのことを彼女に聞いた。すると奈々は微笑んだままで答えた。
『――たとえ、どの時代のつっくんでも、つっくんはつっくんだもの。私の大事で大切な、大好きな子よ』
みんなでお見舞いにいかなくちゃあね。
そう言って、沢田奈々は母親の顔をして笑った。
女は強い。
そんなことをリボーンはぼんやりと思った。
奈々が力強く母親として微笑むのを見た子供達は、それだけで少々はほっとしたのか、こわばり続けていた表情をゆるめた。
奈々は、ランボとイーピンが学校を休んで、『綱吉』のところへお見舞いに行くことを提案した。子供達は手を取り合って喜び、『綱吉』へのお見舞いの品の相談を始める。ビアンキは奈々や子供達に少しだけ元気が戻ってくるのを眺めて微笑した。
奈々が「都合の良い日を教えてね」と言うので、リボーンは明日の昼にでもくればいいと勝手に約束をとりつけた。検査に時間がかかるにしても夜中にはもとのマンションに戻るはずで、明日の昼頃には綱吉も起きるだろうと思っての、約束だった。
忘れる前にと、綱吉が寝ているシャマルのマンションの電話番号を彼女に教える。奈々は電話の横のメモ帳にしっかりと番号を書いて、なくさないように壁にかけられているコルク版にメモを画鋲でとめた。
奈々が子供達をねかしつけ、ビアンキと奈々が寝室に行くのをリビングで見送ってから、リボーンはシャマルに電話をかけ、彼に沢田家へ迎えに来るように頼んだ。見た目は五歳ほどの子供でしかないリボーンが、深夜に長距離を移動するとなると知り合いに頼むほかない。シャマルは「俺をタクシー変わりにするのはおまえくらいだよ」と皮肉ぽく言ったが、きちんと迎えに来た。
ドイツ製の二人乗りのミニカーに乗って現れたシャマルの助手席にリボーンは乗り込んだ。シャマルは特に何も話さずに、黙って運転を始める。リボーンは助手席に身体を預けて、ぼんやりと車の外を眺めていた。速いスピードで流れていく街のネオンの明かり、車のヘッドランプ――、夜の闇のなかで機械的な発光がつよく網膜にのこる。
「――検査、どうだったんだ?」
「脳機能には異常はねーそうだ。いちおう、撮ったデータとかを詳しく調べてくれるそうだから、結果待ちってことになるわな」
「そうか」
それきり、会話はなくなってしまった。
赤信号で車が停車する。
前方の車の真っ赤なブレーキランプに、綱吉が流していた血の赤が重なる。
頭の傷など、当たり所が悪ければ即死だ。
脳に損傷があれば取り返しがつかない。
いまの綱吉は、目が見えない。
これから先も見えなくなるかもしれない。
失明して、しまうかもしれない。
彼の言い分が正しければ、彼の年齢は二十七歳だろう。
二十七歳。まだこれから先、長い長い人生があるはずだろう。目に映すべき美しい風景や感動する出来事があったのかもしれない。だがしかし、彼はもう二度と何も目にすることが出来ないのかもしれない。
ざわりざわりと心の中が不安定に騒ぎ出すのを感じながらリボーンは目を閉じた。眠ってしまいたいと思った訳ではなく、世界と己をつなぐものを遮断してしまいたかった。できることなら耳すらふさいでしまいたいほどだった。
目を閉じて、ほどなくして、シャマルのマンションに到着した。地下駐車場から直結しているエレベータに乗り込み、シャマルがワンフロアすべて借り切っている――広さがあるので名義的には二部屋だったが――フロアに到着すると、シャマルはポケットからカードキーを一枚取り出してリボーンの前に差し出した。
「なんだ?」
「これ、そっちの部屋の鍵な。おまえに預けとく」
リボーンが手のひらでカードキーを受け取ると、シャマルは左側の部屋を指さした。
「俺はこっちに居るから。何かあったらインターホン鳴らせ。それで起きねぇなら、そっちの部屋の短縮の一番押せ。こっちの部屋の電話につながってっから。じゃーな。俺ァ、寝る」
くるりと背を向けて、シャマルは片手をひらひらと振った。
リボーンはカードキーを手に右側の廊下を歩いていき、扉の横に備えられたカードリーダーにさしこんでスライドさせる。かちり。という音と共に扉の鍵が開く。カードをスーツの内側にしまって、リボーンはすでに知っている室内のなかをまっすぐに横切って、綱吉が眠る一番奥の部屋に向かった。
いつものように足音も気配もいっさいを消して、リボーンは綱吉のいる部屋の扉を静かに開けた。眠っていると思っていた綱吉がベッドで上半身を起こしており、扉が開いた些細な気配に敏感に反応するように、視線を扉へ向けてきたので、リボーンは思わず動きを止めてしまった。
部屋の隅にある、ルームランプの淡い照明をうけた綱吉の表情は、入室した人物が誰なのかを探るようにしかめられている。
「――誰? シャマル?」
「オレだ」
リボーンが声をかけながら扉を閉めると、彼はほうっとわざとらしく息をついて肩を落とし、笑った。
「あ、リボーンか。なんだよ、帰れって言ったのに」
「説明はちゃんとしてきた」
リボーンは綱吉が寝ているベッドサイドに近寄っていき、近くのスツールを引き寄せて座った。人の動く気配を敏感に察知するかのように、綱吉はぴたりとリボーンのいる方へ顔を向ける。しかし、その双眸の焦点はあってはいないようだった。
「母さん、なんだって?」
「明日、見舞いにくるって言ってたぞ」
「……えっと。未来のオレに関して、何か言ってないの?」
「つっくんはつっくんでしょう? だとよ」
「あー……、うん。母さんらしいか。チビ達は?」
「ガキ共も明日来るだろうよ」
「ははは、明日は騒がしいことになりそうだなあ」
明るく言って綱吉は笑い声をあげる。リボーンは読心術を使って探るように綱吉のことを眺めた。しかし、綱吉の心は読めなかった。当たり前だ。読心術から心を守る術を綱吉に教えたのは他でもないリボーン自身なのだから。
「で?」
「あん?」
「なにか、用? そういうのオレに知らせるの、別に明日でもよかったんじゃないの?」
綱吉は首をかしげて、リボーンの言葉を待つように黙り込んだ。
「……………………」
リボーンは何も言えず、まっすぐに綱吉の視線を見つめ返した。青年という年齢にしては、大きな琥珀色の目がじぃっとリボーンを見ている。実際、彼は見えていないはずだったが、リボーンは綱吉の視線に耐えきれずに視線をそらした。
ふ、と息をつくように綱吉は微笑んで、片手を持ち上げて包帯の巻かれている己の頭に触れた。
「なに? そんなに心配なの? オレのこと?」
「別にそんなんじゃねーぞ」
からかうような彼の顔つきに対して、リボーンは反射的に答えてしまった。瞬時に思いついた言葉を考えもせずにリボーンは口に出す。
「護衛が一人くらいいねーとやべーだろ。おまえ、高校を卒業したらイタリアへ行って、ボンゴレを継ぐんだからな。妙な奴らに襲われねー確証はねえ」
「――ああ、そう。……うん。そうだね。護衛くらい、いないとダメだよね」
まるで、リボーンの動揺を分かっているかのように綱吉は微笑みながら何回も頷いた。リボーンは己の心を読まれぬようにきちんと遮断している。だから綱吉が読心術を使用してもリボーンの心は分からないはずだ。だがしかし、彼の琥珀色の瞳は、リボーンの心の表層の動揺を悟っているかのように、ひどく優しい雰囲気を帯びており、リボーンは居心地が悪いような気がしてスツールの上で姿勢を正すように座り直した。
「目、どうだったんだ?」
「ああ――、検査の結果? えっと、眼球自体に傷はないってさ。強い光を見た衝撃で一時的に機能が停止してるらしいよ。スキャンしても脳機能には異常なし。薬も治療も必要なくって、……ほっとけば治る?的な感じ?ってシャマルには言われたけど?」
シャマルは、異常が見つけられないので放っておく――ということをリボーンに伝えることなど出来ないと思って、リボーンには検査の結果待ちだと言ったのだろう。呆れより苛立ちが勝り、リボーンはひきつった顔のままでスツールから腰を浮かせた。
「よし。ちょっとシャマルを殴ってくるか」
「っはは、行かなくていから、ここにいてよ。――実は、少しだけ、ぼんやりとなら見えるようになってきてるんだ。だから心配しないで。そのうちさ、見えるようになるって、きっと。それよりさ、こっちきて。ベッドに座ってよ。輪郭くらいならね、見えるようになってきてるんだからさ。おまえの顔を見せて」
ぽんぽん、と綱吉が己が寝ているキングサイズのベッドのシーツをたたく。
リボーンは少しだけためらったあとで、靴を脱いでベッドに膝で乗りあげた。布団をすこしめくりあげて、綱吉はベッドのうえに座る。その彼の目の前にリボーンは座った。大きな綱吉の手のひらが持ち上げられ、宙を探るように動く。リボーンは手を持ち上げて、綱吉の片手をとり、己の顔へ導いた。
「お。ありがと」
勘の良い彼は、もう一方の手もすぐにリボーンの顔に近づけ、頬に触れる。そうっと、まるで壊れ物でも扱うかのように綱吉の指先がリボーンの額から頬にかけてのラインをなぞった。ぞわりとした、悪寒とは違うなにかがリボーンの背中をすべりおちていく。跳ね上がった心音の意味に気がつかないふりをして、リボーンは間近にある綱吉の顔を眺めていた。年を重ねたにしては相変わらず年齢がよく分からない童顔に、変わらない琥珀色の瞳、ふんわりとした髪、あどけない子供のような笑い顔――。
ふいに綱吉がリボーンの顔に顔を寄せる。
驚いたリボーンが動揺を表情にのせまいと堪えた刹那、綱吉は目を細めて笑った。
「これぐらいならね、ぼんやりとなら、おまえの顔が見えるようにはね、なってきてるんだよ?」
「そうか」
ほとんど上の空の様子で相づちをリボーンは相づちをうつ。あと数センチ、リボーンが顔を近づければ、綱吉の唇とリボーンの唇が触れてしまいそうだった。うっすらと開いている彼の唇から吐き出される吐息がリボーンの肌に触れる。息をひそめて綱吉の手のひらが離れるのを待つ。きれいというよりは愛らしい顔立ち。大きな瞳をふちどるのは髪の色と同じく淡い色をした睫毛、小さな鼻、血色の良い桜色の唇、うっすらひらいた唇からのぞく白くすべらかな前歯。
あと少しだけ近づけば。
あと少しだけ顔を寄せれば。
綱吉の唇に触れることができる。
「…………ッ……………」
リボーンは愕然として動けなくなる。
綱吉を相手に、
教え子を相手にキスをする?
彼にキスをしたいなどという欲求をリボーンは抱えたりしていない。はずだ。
綱吉が触れている箇所が、きゅうに熱くなったような気がしてリボーンは身体を震わせる。その動揺が伝わったのか、綱吉が不思議そうな顔をして「くすぐったかった?」と小さな声で囁く。
「――もう、充分だろ?」
リボーンは両手で綱吉の手を己の顔から引き離した。綱吉はリボーンの拒絶に反抗する素振りすら見せず、素直に身を引いた。
両手で顔をおおって、リボーンは目を閉じる。ゆっくりと呼吸をして波立った感情を制御する。落ち着け。動揺するな。惑うな。冷静に。冷静に。冷静に。深くしずかに呼吸をして、リボーンは顔からすぐに手を放す。
綱吉はベッドのうえに座ったまま、両手を膝のあたりにのせて微笑んでいた。
「リボーン。いま、五歳くらい?」
「ああ。そっちのオレは……」
いまも、おまえの近くにいるのか?
と、聞こうとして、リボーンは言葉につまった。
いるよ。
と、答えられれば、オレがいるのにどうしておまえがそんな目にあっているんだと聞かねばならなかったし。
いないよ。
と、答えられれば、どうしてオレはおまえから離れなきゃならなかったのか、と聞くことになる。
どちらもあまり、リボーンにとっては聞き返したくない内容だった。
そんなリボーンのためらいを勘良く察した綱吉は、何でもないことのようにあっさりと言ってのける。
「うん。今も、うちにいるよ。ボンゴレのね、影って言われてる。十四歳になってるよ。背も伸びたし、身体も大きくなって――、ああ、でも、今でもその帽子……、ボルサリーノって言うだっけ? 愛用しててね、全身黒ずくめだから烏とかね、言われてたりもするんだよ」
「……おまえがそんな風になったとき、オレも一緒にいたんだろう?」
「うん。いたよ」
決定的な答えを口にした綱吉は、リボーンが何かを言う前に続きを口にした。
「誰も悪くないよ。悪かったのはタイミング。それに、オレのことはさ、『いま』のおまえが悔いることじゃあないよ。きっと、『あっち』のおまえのほうが悔いてるはずだろうしね。あんまり、落ち込むなよ。調子くるうだろ」
「ツナ――、オレは」
「あ。一緒に寝ようっか?」
リボーンの強ばった言葉に重ねるように綱吉が言う。
「は?」
思わず口をあけて停止してしまったリボーンの手を探り当てて掴んだ綱吉は、リボーンの話に聞く耳などもたないかのように、微笑みながら言う。
「だって、リボーン、ずっとそこの椅子にいるつもり? やだよ、オレ。一人でぬくぬくベッドで寝てるのなんて」
「……なんでオレがおまえと同じベッドで寝ないといけねーんだ、え? オレは護衛するって言ってんだろ?」
「いいじゃないか。あ、じゃ、あれだ! リボーン、子供体温だからゆたんぽってことで!」
「適当なこと言ってるだろ」
悪びれた様子もなく綱吉は笑って頷きながら口を開く。
「うん。わりと適当なこと言ってみた。――冗談はここまでにして。おまえも疲れたでしょう? 今日は、ほら、襲われるってこともないよ、大丈夫だよ、きっと。だから今日だけは、休もう? ――ほら。おいで」
めくりあげた布団に足をいれた状態で、綱吉はおのれの隣のシーツを片手で叩いた。
『ツナ。オレは――』
リボーンが口にしたかったのは謝罪だった。
すまない。
悪かった。
そう言い募っても、何も変わらないのだと、リボーン自身がよく分かっている。昔、同じようなことで綱吉を責めたこともあった。何かが起きてしまったあとで言葉を重ねても意味があることなんてほとんどないに等しい。どうしてそれが起きたのか。どうして防げなかったのか。それを会話することのほうがよほど有意義なことなのか、理解しろ、と。
もしかしたら、リボーンがそう言ったことを未来の、目の前にいる綱吉は覚えているのかもしれなかった。だから、リボーンが言葉を続ける前に、言葉を遮ったのかもしれない。
九年と半年後の沢田綱吉がリボーンの目の前にいる。
ドン・ボンゴレとして生きている、沢田綱吉がリボーンの目の前にいる。
リボーンの唇から、己の存在理由をすべてをくつがえす問いかけがもれそうになる。
ツナ。
ツナ。
おまえは、
いま、
しあわせなのか?
血を流しても、
怪我をしても、
誰にもよりかからずに、
立っていなければならない場所へ、
おまえを導いたオレを、
オレを、
うらんで、
にくんで、
いないのか?
乾いた口の中に唾液はない。
こくりと喉がなる。
飲み込んだのは問いかけ。
言葉に出来るはずなどない。
言葉にして肯定されたら、リボーンは何を言い、何をするか、己のことなのに全く分からなかった。
「リボーン?」
装うことに慣れたような、わずかに甘えた響きをふくませて綱吉が名を呼ぶ。
すべての感情を薙ぎ払うようにリボーンは一度目を閉じて、目を開く。
目の前にいる綱吉を守る。
それ以外、考えないように、かたく感情を戒める。
必要なのは綱吉を守るための力。感情は邪魔なだけで必要はない。
わざとらしく嘆息をして、リボーンは出来るだけ横柄な声音で言った。
「仕方ねーな。そうまで言うなら寝てやるぞ」
「あはは、そうこなくっちゃ」
布団にもぐりこんだ綱吉の横へ、スーツの上着を脱いでスツールのうえに放ったリボーンは身体を滑り込ませる。すでに綱吉のぬくもりで温められていた布団は心地よい。向き合って寝るのが嫌で、リボーンが綱吉に背を向けると、彼の腕がにゅうっと伸びてくる。片腕は寝ているリボーンの首の下あたりをとおし、もう一方の手がリボーンの腰のあたりに回されたかと思うと、抱き枕でも抱くかのように無邪気に抱きしめられてしまった。
「えへへ。ぬくいぬくい」
「マジでゆたんぽかわりか」
呆れるようにリボーンが言うと、彼はクスクスと耳元のあたりで笑った。頭の下から身体の前に回されていた綱吉の手がリボーンのシャツを掴む。襟がよじれて、少しだけ喉が窮屈になり、リボーンは顔をしかめた。
「苦しいぞ。ツナ」
「うん」
手をゆるめて、そうっと、落とすように綱吉が囁く。
「うん。ごめんね」
それはきっと、シャツを掴んだことに対する謝罪でないような気がした。
だが、リボーンは問い返さなかった。
身体に回されている綱吉の腕と、背中側に感じられる彼の身体の熱が、彼が生きていることを示していた。触れあった箇所が熱くうずくような気がしたが、それは次第に安心感のようなものにすり替わっていった。
生きている。
沢田綱吉が生きている。
それだけで、リボーンは己でも驚くくらいに安心していた。
「おやすみ。リボーン」
背後から、低く囁くように綱吉が言う。
リボーンは腰のあたりに回されている綱吉の腕の、指先に指先だけを触れ合わせるようにして、目を閉じた。
「――おやすみ」
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