ボンゴレの敷地内にある病棟の一室で、リボーンがシャマルの手によって処置を受けている中、クロームが預かっていた持ち主不明の携帯電話が再び鳴った。処置を初めてまだ間もないころだ。
 シャマルの手によって胴の辺りに固定器具を装着していたリボーンは、側に立っていたクロームに左手を出す。クロームは無言で彼の手に携帯電話を渡した。

 リボーンは相手と二言三言、会話をしたかと思うと携帯電話を切った。どうやらどこかに来るようにと指示を受けたらしいことを会話の内容から察することが出来た。彼から二つに折り畳まれた携帯電話を受け取ったクロームは、コートのポケットに電話をいれた。


 リボーンをシャマルに託してから、クロームは私室に戻り、素早く着替えをすませた。
シックなデザインのモノクロのワンピースの上に丈の長いコートを羽織り、ふくらはぎの辺りまで高さのあるロングブーツを履いた。最近では丈の短いスカートを履かなくなっていたが、戦闘になる場合があるのならば丈の長いスカートは足運びの邪魔になる。髪は頭のうしろでひとつにまとめあげ、銀色のヘアクリップで留めた。少々身動きしたからといって解けないようにきつめに結い上げておいた。

 クローゼットのなかに仕舞っておいた三又槍も久しぶりに手にした。六道骸が特別にクローム用にあつらえてくれたもので、骸が持っているものよりも少しシルエットが細めで軽量だ。幾分か華奢な武器であれど、骸が所持している槍と同じくらいの機能を秘めているものでもある。

 いつもと違う服装と髪型、そして久方ぶりに握った槍の柄の感触が、クロームのなかで緊張を増幅させていく。リボーンには気取られないようにしなくてはと思いながらも、クロームはひどく緊張していた。
 無理もなかった。
 リボーンには強気な発言をしてみたものの、実戦から離れたクロームの術が、全盛期のころのように上手くいくのかどうかはクローム自身にも分からなかった。処置室に向かう前に一度、鏡の前でかるく幻術を試した。六道骸へつよく呼びかける。

 骸様。骸様――。

 クロームが今まで見てきたすべてを骸に伝えるように彼へ強く強く思考を送った。数分ほどそうしていると、鏡のなかのクロームの姿が揺らいで、ほんの少しの間六道骸の姿になった。骸は微笑んで、そして頷いた。クロームはそれだけで、神様に守られているかのような安堵感を得ることができた。不安感など些細なことだったかのように払拭しきれていることに驚きつつも、クロームは私室を出て医療棟へ向かった。

 ランボとスカルが連れ立ってリボーンのところへやってきたのとクロームが病室へ訪れたのはほとんど同時だった。

 リボーンはシャマルによる注射や点滴などの処置を受けながら、ランボとスカルに指示を出した。スカルにはボンゴレの構成員をいくつかの部隊へ編成し、これから出発するリボーンとクロームを追跡し、リボーン達を襲撃してきた人間達を捕縛するようにと指示をした。ランボには、スカルが統率する部隊とは別に、狙撃を得意とする構成員数名と共に、リボーン達を襲撃してくるであろう人間達を狙撃できるポイントへ点在し、サポートに当たるようにと言った。

 普段ならば、リボーンの指示など受けないと言ってもおかしくない二人だったが、否と言う素振りすら見せずに、すぐに了承した。ランボとスカルはテンポ良く会話をしながら病室を出ていった。おそらくは人員や武器、車の手配をするのだろう。
 
「こちらが人員を手配したことを知ったら相手が腹をたてて何かしたりしないかしら?」

 クロームの言葉にリボーンは口角の片側だけを持ち上げ、

「あいにくと『一人で来い』なんて言われちゃいなかったからな」

 と言って鼻先で息をついた。



 それが現在から数十分前の出来事だ。



 骨折していた右腕が最後の処置だった。手術室に入ってからすでに四十分近く、二回目の電話があってからは三十分ほどが経過している。一回目の電話を受けてからは一時間以上が経過していた。

 クロームは片腕を動かせない彼がシャツを着るのを手伝った。ボタンを上から順に留め、襟元に黒と銀の細かいチェック柄のネクタイを結ぶ。そして次にスーツの上着も同じように彼に着せた。シャマルはもう何も言わなかった。処置を始める前、彼は散々リボーンに「副作用」「負担」「後遺症」という単語を何回も繰り返した。だがリボーンは頑として「やれ」とシャマルに命じた。シャマルは目を閉じて、きつく唇を引き結び――「分かった」と言った。


 リボーンはベッドに座ったまま、シャマルを見た。
 シャマルは血に汚れた薄い手袋を外して足下のゴミ箱へ投げ捨てながら、リボーンを見た。



「すまねーな」



 シャマルは無精髭がのびた顎を指先でかきながら、厳しい目をした。



「俺はおまえの死体を検死するのはごめんだぞ」

「わかってる」

「全然分かってねぇだろ。馬鹿が」



 吐き捨てるように言って、シャマルは両目を細める。苛立たしげに息を吐き出し、片手を持ち上げて何かを言おうとしたシャマルだったが、――結局は何も言わずに持ち上げた手を強く握りしめて身体の脇へ下ろした。



「嫌な役やらせてすまねーな。でも、おまえにしか頼めねーことだったんだ」



 舌打ちしたシャマルは、両手を白衣のポケットに入れ、きつくリボーンのことを睨んだ。普段、しまりのない顔ばかりしているシャマルが浮かべる切れ味の鋭い表情に、クロームはリボーンの状態が本当に良くないのだということを思い知った。だがしかし、クロームにはリボーンの行動を止められるだけの言葉も力もない。だからこそ、リボーンを一人で行かせないために、クロームは戦うことを決意したのだ。



「――事が終わったら、一番最初に俺のとこへ来るって約束しろ」


「約束する」



 言いながら、リボーンがベッドから降りる。革靴に足を入れ、ベッドのうえに置かれていたボルサリーノを左手で掴み、包帯が巻かれたままの頭へ帽子をのせた。そして、リボーンは顔の前で左手を開いたり閉じたりを繰り返した。静かに深呼吸をした彼は、立っていたクロームを見た。



「本当におまえも来るのか?」


「あなた一人で行かせたりしない」


「無理はするな」



 頭に包帯を巻き、右手や胴体を特別仕様の軽量ギプスで固定している少年が言う台詞ではない。クロームは両手で三又槍を胸の前で持ち、リボーンの目をまっすぐに見た。


「行きましょう」


 頷いたリボーンはシャマルと一度、視線を交わしてから病室を出ていく。


「――戦いし者に幸運を」


 片手を上げたシャマルが低い声で囁く。

 クロームは、シャマルに一礼をしてから、彼に背中を向けた。







×××××






 車の運転席にクロームが乗り込み、助手席にリボーンが座った。電話の相手が指示した場所をリボーンはすでに知っていた。車を発進させたクロームに道順を指示しながら、リボーンは身体の痛みが徐々にひいていくのを感じていた。左手を動かしても痛みはなく、普段通りのように身体が軽い。右腕の骨折と左目だけはどうにもならなかったが、片目と片腕さえあれば、二流三流のヒットマンごとき、リボーンの敵ではない。

 車を一時間近く走らせて到着したのは、すでに閉館している劇場だった。自然との調和を目的として郊外の土地に建てられたため交通の便が悪く、結局は寂れて潰れてしまった劇場だ。

 駐車場へ車を停車してリボーン達は外へ出る。ざっと片目で周囲を見回しながら気配を探って見るも、敵らしい気配はない。リボーン達のあとを追尾しているはずのスカル達の気配もまだ遠い。近づきすぎて正体がばれてしまうような追尾の仕方をスカルがするとはリボーンは思っていない。普段はスカルを下僕扱いしているが、彼の策士としての能力の高さだけは認める価値があった。純粋な戦闘能力を比べるのなら彼に負けるつもりはないが、頭脳戦だけを比べるのならば、スカルは未だにリボーンの中では未知数な存在だった。


「中へ入る?」

 車の後部座席から三又槍を取り出してドアをしめたクロームが、車の脇に立っているリボーンを見た。


「ああ」


 腰の後ろのホルスターから拳銃を一丁引き抜いて、リボーンは答えながら歩き出す。少し遅れてクロームが槍を手についてきた。

 建物の中に進入してしまうと、狙撃による援護は期待できない。会話を行うような通信機器は妨害電波によって使用できない可能性が高かったので、そういったものをリボーンもクロームも所持していない。隠密行動を得意とする人間が一人、リボーン達の後を追尾してきている。襲撃された場合、彼が後続の部隊へじかに連絡する手はずになっていた。

 劇場の入り口が近づいてくる。
 リボーンは振り返ることなく、半歩ほど遅れてついてくるクロームに声をかける。


「油断せず、警戒してろ」

「ええ。分かってる」


 劇場のドアは、誰かの手によって随分と前に叩き割られていた。どこの時代、どこの国であろうと、廃墟は若者達のたまり場になることが多い。イタリアであろうとも、日本であろうとも同じだ。硝子はほとんど割られ、ロビーに置かれていたテーブルやソファも倒されていた。菓子やペットボトルなどのゴミが散乱し、倒れたソファの上にCDコンポや古いCDが置き去りにされていた。
 閉館して十年以上経過しているせいか、内部はかなり荒廃していた。壁紙ははがれかけ、天井からぶら下がっている照明のいくつかはすでに床に落ちて割れていた。足下も瓦礫や壊れた照明、硝子の破片などが散乱していて、転んだらただではすまないような有様だった。

「気をつけろよ」

 肩越しに振り返りながらクロームを見る。
 彼女は頷いて慎重に足を運ぶ。

 蝶番が壊れてしまったのか、それとも誰かが悪戯に破壊したのか、ロビーからホールに入る重厚そうなドアはロビー側の床に倒れていた。

 リボーンとクロームは、ドアのない空間を挟み、左右に分かれた。

 視線で合図を交わしてから、リボーンが先に突入して素早くその場をの安全を確認する。全神経を己とクローム以外の人間の気配を探るために展開する。かすかな気配すら逃さないようにしつつ、幾度か銃口を構え直しながら五歩ほどホール内部へ踏み行った。前方の舞台へ向かって、座席が段々に並べられている。ざっと見積もっても三百人は入らないような小劇場だった。どこにでもあるような深紅の緞帳が、ちょうど中程から破れて無惨にも舞台のうえにとぐろを巻いている。元は高級そうだったであろう座席の布地も色あせ、あちこちの座席が壊れて斜めになっていたりした。

 リボーンから数秒遅れてホール内部に踏み込んできたクロームは、両手で握りしめた槍を胸元あたりに引き寄せたまま、静かにリボーンの背後へ近づいてきた。彼女もまた、周囲を警戒するように眼帯に隠されていない片目を忙しく動かして辺りへ視線を動かしていた。

 警戒をしながら、リボーンとクロームはゆっくりと段差を降りていき、中段まで到達した。すでに数分が経過していたが、どこからも変化の兆しは現れない。強い緊張を保ち続けるには限界がある。


 リボーンが足を止め、近くの座席の肘置きへ腰を預けると、クロームは大きく息を吐き出して何度も瞬きをした。リボーンが腰を預けた座席とは、通路を挟んだ反対側の座席へ寄りかかるようにして、クロームは首をかしげた。


「誰もいないのね。どうしてからしら?」

「そんなのオレが知る訳ねーだろ」

「……いったい何をするつもりかしら? 私、てっきり待ち伏せされていると思っていたのに」

「待ち伏せに関しちゃあ、オレも同感だったさ。弱ぇ奴らは群れるからな。わんさといると思ってたんだがな」


 クロームが瞳を左右に動かして、肩をすくめた。

 劇場内にあるのはリボーンとクロームの気配だけだ。他には生きている人間の気配はない。待ち伏せている人間がいない場合、襲撃ではなく、リボーン達を劇場に足止めすることが目的なのかもしれないという疑問が生まれてくる。何のために――、ボンゴレの本邸を陥落させるために? だがしかし、リボーンのところへ電話をかけてきた相手は、綱吉を拉致し、リボーンの生命を欲したのだ。

 何らかの攻撃が与えられることは間違いがない。
 それだけは、確実だ。

 リボーンは拳銃のグリップを強く握りしめる。人差し指はトリガーにかけられたままだった。いつでも引き金を引く用意も覚悟もすでに出来ている。
 リボーンの手元を眺めたクロームの頬のあたりが、緊張するようにぴくりと動いた。いくら元・霧の守護者といえど、実戦を退いてすでに何年も経過している。いまの彼女の仕事は主に秘書的な役割ばかりで、戦場に立つことはほとんどない――というより、綱吉の計らいによって彼女は徹底して表側の、まっとうな仕事ばかりを割り振られていた。

 綱吉はクロームの過去を骸から聞いている。リボーンはクロームの過去など、すでに己の情報網を使って調査済みだった。

 骸に出会うまでの彼女の世界はモノクロだったろう。骸と出会って世界が色づいたとしても、彼等と歩む道は夜叉の道だった。そしてクロームは綱吉と出会い、――本当の意味で生まれ変わった。たとえ修羅の道であろうとも、綱吉は持ち前の優しさと意志の強さでクロームのことを導き、そして必ず守ろうとするだろう。綱吉もまた、クロームの苦い過去や骸達との絆などを思い、彼女が幸せになれたらいいのにと、常々リボーンにすらもらすほどに、彼女のことを心配していた。

 綱吉が心配し、大事にしていたクロームを戦場に引きずり出してしまったことを、リボーンは今さらになって少し悔いていた。もしも、それを知った綱吉に非難されたらと思うと、気が重くなる。だがしかし、もしもリボーンと同等の一流の殺し屋が敵として現れた場合、彼女の援護なしでは、今のリボーンは死んでしまう確率が高い。

 リボーンは死ぬ訳にはいかない。
 十八歳の綱吉と二十七歳の綱吉の入れ替わりを正すまでは、死ぬ訳にはいかない。
 とはいえ、もとより死ぬつもりなどない。
 リボーンは生き残り、『大事なもの』を取り戻して幸せになるのだ。
 死んでしまうには、まだまだリボーンは生き足りていない。綱吉に言いたいこともまだたくさんあるし、彼としたいことも彼とやりたいこともまだまだ数え切れないほどにある。
 だから死ぬつもりなんて、まったく考えていない。
 綱吉を抱きしめ、キスをして――、立てなくなるほどに愛してやろうとしか、考えていなかった。


「……なにか、おかしい?」


 無意識でにやついていたリボーンをクロームが不思議そうな顔で見ている。
 思わず、リボーンは声をたてて笑ってしまった。
 たとえその場にいなくとも、沢田綱吉によって強い影響を受けている自分自身がおかしかった。

 きょとんとしているクロームの瞳を見据え、リボーンはにぃっと口元に笑みを浮かべた。

「たとえ、待ち伏せされていたとしても、オレやお前が蜂の巣になるまえに、オレが奴らを蜂の巣にしてやったのに、残念だったなと思ってな」

「蜂の巣? 片腕でも?」

「オレを誰だと思っていやがる」

 小さく笑って、クロームがこくりと頷く。

「素敵」


 クロームが顔を動かして劇場内を観察しながら口を開く。


「静かね」


 艶やかな黒髪が白くなめらかな頬にかかる。一瞬、クローム・髑髏の顔立ちに六道骸のシルエットが重なった。彼女と彼は面差しが似ている訳ではなかったが、時折、男女という違いなど些細とさえ思えるほどに、雰囲気が似ていることがあった。

 六道骸。
 リボーンが最後に目にした彼は血の気の薄い顔をして、腹部から多量に出血をしていた。
 生きているか死んでいるか分からない。現状で、彼の情報は皆無だった。死体もなければ、目撃情報もない。

 六道骸。
 彼は、異常や異様という言葉で言い尽くせぬほどに、沢田綱吉に執着していた。綱吉の前では良い子ぶった態度を貫いているようだが、リボーンの前では彼は歪んだ感情を隠すことはない。何度も「殺してやりたい」と微笑みながら言われたこともある。
 しかし、それはリボーンも一緒だった。
 綱吉のなかで、六道骸という人間は特別なのだ。他の守護者とは違う、因縁とも宿命とも言えるような絆が、確かに綱吉と骸の間には存在している。それは綱吉とリボーンの間にあるものとは徹底的に違うもので、綱吉と骸との間にリボーンと綱吉と同様の絆が生まれる可能性は皆無のはずだ。だがしかし、綱吉は骸がのばしてくる手を振り払うことはしないだろうし、骸は綱吉に手を伸ばし続けるであろうことは簡単に予測できる。

 六道骸ならば、沢田綱吉を何が何でも生かすだろうという確信がリボーンにはあった。骸は綱吉のためならばどこまでも非情になり、また、どこまでも優しくもなれるだろう。

 もし、この場でリボーンが死んだとして、
 あらゆる意味で綱吉を生かすことができるのは――六道骸なのかもしれない。


「リボーン?」


 急に黙り込んだリボーンを案ずるように、クロームがわずかに上体をかがめ、リボーンの顔をのぞき込んでくる。

「具合が悪い? 大丈夫?」

「――なあ、クローム」

「なに?」

「骸は生きているのか?」

「――死んでないわ」

「それは生きているといいきれないだけか?」

 少し怒ったように顔をしかめ、クロームはリボーンを睨んだ。

「骸様が生きていても、あなたの替わりにはならないわ」


 言外に込めていた思惑を言い当てられ、リボーンは片手をあげてクロームの言葉を遮った。一度は素直に口を閉じた彼女だったが、短く息を吐いてから、気を取り直したようにぱっちりと片目を開いてリボーンを見た。その視線を、リボーンもまた、片目だけで受け止める。


「前にも言ったかもしれないけれど……。ボスにはあなたが必要だし、あなたにはボスが必要だと思う」

「なんだか知らねーうちに、そういうことになっちまったみてーなんだよな。まったく、どうして……」


 微苦笑を浮かべてリボーンが肩をすくめると、クロームは大事そうに三又槍を両手で抱え、寄りかかっていた座席から離れて姿勢よくその場に立った。


「あなた達とは違うけれど。私と骸様も同じような関係だから、分かるわ。どちらか一方が欠けては存在できない――、そういう絆というものは確かにあるのよ」

「どちらかが欠けては存在できない、か……」

「――あのね、リボーン。私、あなたに言っておきたいことがあるの」

「なんだ?」

 クロームの問いの続きを促すように、リボーンは首をかしげた。
 彼女は座席に腰を預けたままのリボーンを見つめる。


「私、ボスの子供を産みたいのだけれど、いい?」


 唐突な発言に驚いて、リボーンはとっさに笑ってしまった。クロームは笑わず、真剣な顔でリボーンのことをまっすぐに見つめている。


「いきなり、どうした?」

「確認してみたくなったの。いいかしら?」

「ツナの子供を産みてーんだろ? そんなのオレに選択権はねぇぞ。ツナに聞け」

「分かった。聞いてみる」

「ああ、聞いてみろ」

 おかしさがこみ上げてきてリボーンはしばらく小さく笑っていた。つられるようにクロームが穏やかに表情をゆるめて口元に微笑を浮かべる。クロームがまだ幼い頃から、リボーンは彼女の成長を見てきた。十三歳から二十六歳になるまでずっと見守ってきた。綱吉が言うように彼女の生きる道は苦難が多かった。だからこそ、周囲の人間は彼女の幸せを願っていた。

 クロームが綱吉の赤ん坊を生むことが幸せなのだろうか。
 綱吉はリボーンと愛し合っている。
 たとえクロームが子供を産んだとしても、綱吉とリボーンの関係は続くだろう。
 そんな状態でいて、クロームが幸せなのだろうか。

 彼女の幸せは何処にあるのだろう。
 と、思いながらも、
 何処の誰かも分からない女に綱吉の子供を産んでもらうくらいならば、クローム・髑髏に生んでもらったほうがいいのではないか――とも思う。

 どちらにせよ、リボーンと綱吉のせいで、彼女の運命はねじ曲がることに間違いはない。

「クローム」

 リボーンの呼びかけに、クロームはうすく笑んだままで首を傾げる。


「オレはツナと縁を切るつもりはない。それでもいいのか?」

 くすん、と吹き出して、クロームは愛らしく微笑みながら、片手で口元を隠す。

「いまさら言うことかしら? 私はずっとあなた達を見てきたのよ? ボスはあなたがいなければ幸せになれないし、それはあなたも一緒でしょう?」

「おまえの幸せはどこにある?」

「私の幸せは私のなかにある。そして、きっとボスの側にもあなたの側にも、骸様の側にもある。――だから、私は幸せになれる」

「赤ん坊を生むのは簡単じゃねぇんだぞ?」

「リボーン。私、中学生じゃないのよ? ……確かに初産だから経験がないけれど、女性ならばいつかは経験することでしょう? ちゃんと生んでみせるわ」

「……女はすげぇな」

「男の子は時々、臆病よね」

 言いながら、クロームが微笑む。

 精神的な強さ、真摯な姿勢、美しい容姿、常にぶれることのない徹底した意志――。

 リボーンはクロームのことをよく知っている。
 彼女という人間をよく理解しているからこそ、リボーンは思った。

 彼女ならば、リボーンと同様に、『彼』を生涯支え続けることが出来るだろうと。
 リボーンには出来ない方法とリボーンには考えつかないような提案で、これからの沢田綱吉を助けていくことが出来るだろうと――確信した。


「クローム」


 リボーンの呼びかけに応じるように、クロームが美しい瞳を瞬かせる。


「おまえ、ツナと本当に結婚しろ」


 リボーンの口から出た言葉に射抜かれたように、クロームは息を吸い込んだところで停止してしまう。両手でぎゅっと槍の柄を握りしめた彼女は、信じられないものを見るように目を見開いてリボーンのことを見た。


「女のお前と婚約して結婚するっていう情報が出回れば、幾分かは今回の混乱を沈静化させることができるかもしれねぇぞ」

「それは、そうかも、しれないけれど……」

「なに、戸惑ってんだ? 赤ん坊、生むつもりだったんだろう? なにを恥ずかしがることがある」

「結婚だなんて……、そんな……、ボス、私なんかと……」

「なんだ? 赤ん坊生むより、結婚するほうが一大事だってのか?」


 困ったような顔をしてクロームは息を吐き出す。先ほどまでリボーンの前で綱吉の赤ん坊を生むと宣言していた不敵な女性の面影などまったくといっていいほど消失している。


「だって、生涯を神様の前で誓うのよ?」

「誓ったらいいじゃねぇか。おまえ、ツナのこと愛してるだろ?」

「好きよ、大好きだわ。でも、それは私が好きなだけだもの。……ボス、嫌じゃないかしら……」

 独り言のように呟いて、クロームがその場にしゃがみ込んだ。短いスカートからのぞく白くすべらかな膝頭に片手をのせ、クロームが不安そうな顔でリボーンのことを見上げてくる。急に少女のように大人しくなってしまったクロームが愛らしく思えて、リボーンはギプスで固定されている右腕をすこし動かして、手のひらでクロームの頭に触れる。黒い髪は柔らかい。

「おまえと結婚するのがか? オレから見りゃあ、それほど嫌がるとも思えねぇけどな。まあ、本人が帰ってきたら聞きゃあいいだけさ。――だから、クローム。死ぬなよ」

 クロームの黒髪を撫でながらリボーンが言うと、彼女はしゃがみこんだまま、リボーンを見上げて、口元に笑みをのせる。

「それは、お互い様」

「それじゃあ、お互い、死なねぇようにしなくちゃな。じゃねぇと、ツナが泣いちまう」

「そうね。ボスのために、私達、死ぬわけにはいかないわ


 リボーンがクロームの頭から手を引くと、彼女は意識を切り替えるように深く息を吸い込んでから立ち上がった。リボーンもまた、座席に腰を預けるのをやめて姿勢を正して立った。会話をしながらも周囲への注意は怠ってはいない。相変わらず人の気配はなかった。


「爆弾の処理はうまくやっているかしら?」

 足を引いて立ち位置を変え、周囲を見回しながらクロームが言う。

「ヴァリアーだからな。失敗することはねぇだろうよ」

「――ボスも、無事でいてくれるかしら?」

「自分に出来ることをやるって言いやがったんだ。責任とって、自分でどうにかしてもらわねーとな」

「……そうね。心配ね。ボスのこと」

「オレは心配なんてしてねーぞ」

「本当に心配してないのなら、あなたはここに来ていないんじゃないかしら?」


 リボーンが答えずに黙り込むと、クロームは数段ほど段差を下へ移動して立ち位置を変えながら、周囲を見回す。


「いったい、何が目的かしら? もしかして、ボンゴレの本邸? 私達がここにいる間にボンゴレが襲われるようなことはない?」

「ボンゴレにはランチアとベルがいる。相当の手練れじゃねー限り、あそこが陥落するなんてことはありえない」

「何なのかしら? 足止め――」


 刹那、大音量で音楽が響き始める。とっさにクロームが片手で耳をふさぎ、数段下からリボーンを見る。リボーンは舞台上へ視線を走らせた。舞台の両脇に設置された大きなスピーカーから物音を一切かき消すかのような大音量で、ベートヴェンの第九が流れ出す。クロームが何かを叫んでいるが、いっさいリボーンの耳には届かない。自分の声すらも聞こえなかったのか、クロームは唇を噛んでから、舞台の方へ身体の向きを変え、段差を降り始める。ぞわっとした予感がリボーンの肌のうえを這った。

「駄目だ、クローム!」

 叫んだ声は届かない。
 左手で耳を押さえたまま、クロームは段差を一段一段、舞台側へ下がっていき、
 ふいに、
 ふらりと、
 『何か』に足をとられたようにクロームの上体が前のめりに倒れた刹那、背後から熱波と爆音が響き渡り、建物を揺らした。あちこちの天井から照明器具が落下して座席のうえへ降り注ぐ。
 背後を振り返ってみれば、爆発が起こったのか進入してきた入り口に瓦礫が重なり、その向こう側では真っ赤な炎が渦を巻いていた。
 リボーンは一段とばしに段差を駆け下り、段差の上で転んで膝をついていたクロームの腕を掴んだ。第九は鳴りやまない。

「立て!」

 リボーン自身の声も第九にかき消される。一回目の爆発から十数秒後、第九の曲の盛り上がりと同じくして、建物の照明がぶらさがっている天井が爆発した。爆発音は音楽にかき消されていて聞こえない。拳ぐらいの破片が降り注いできたことで、リボーンはようやく天井の爆破を察知した。とっさに上空を見上げてみれば、崩れかけた天井から大小様々な破片がリボーン達へ降り注いでくる瞬間だった。まずいと思ったときはすでに遅い。リボーンの身体が反応する前に、リボーンは下側から体当たりをされるように抱きかかえられ、後方へ倒れ込んだ。背中側から段差に叩き付けられたものの、『何か』が覆い被さっているおかげでリボーンにはそれほど大きなつぶては降り注いでこなかった。倒れた痛みから解放されたリボーンは、クロームの身体が己の身体のうえにあることに驚いた。握りしめていた拳銃を手放し、ぐったりとして力のぬけた彼女の身体を腕に抱く。
 仰向けに抱いたクロームの目は閉じていた。支えた背中に触れたリボーンの手のひらがぬるりとした感触に触れる。

「クローム!! クローム!!!」

 ごうごうと炎が座席や絨毯に燃え移りながら渦巻いてうなり声をあげている。崩落した瓦礫が降り注いだ劇場内は酷い惨状だった。耳障りな音を立てて第九が止んだかと思うと、舞台側からも火の手が上がり始める。破れた緞帳にも炎が灯り、劇場内の酸素が燃えるためにどんどん消費され始める。もうもうと鈍色の煙が炎から立ち上り、あっという間に視界を奪っていく。呼吸をするのも、辺りを見回すことも、だんだんと辛くなってくる。

 片腕でクロームの身体を抱きかかえ、リボーンは進入路を振り返る。彼女を抱えたままで、リボーンの身長以上に積み重なった瓦礫を越えることはできない。

 爆殺とはな。

 歪んだ笑みを浮かべながら、リボーンは辺りへ視線を巡らせる。

 身じろぎをしたクロームの瞼がゆっくりと持ち上がる。彼女は近くに手放してしまっていた三又槍を握りしめ、何かを念じるようにきつく目を閉じた。
 途端、透明な半円がリボーン達を包み込むように出現する。透明な膜はどうやら水のようで、周囲からの熱風と煙の影響が軽減される。

「クローム」

「私から、離れないで」

 苦しそうに呼吸をしたクロームは、リボーンの腕に助けられながら上体を起こした。槍を床に立て、柄を両手で握りしめたクロームは深く息を吸い込んで俯いた。一瞬、水の膜が揺らいだかと思うと、少しずつ水の流れに勢いが生まれ、ゆっくりと半円の直径が広がり始める。

 リボーンは床の上においた拳銃を手に取り、退路を見つけるためにあちこちへ視線を向けた――が、すでにどの経路も炎によってふさがれてしまっている。クロームは両手で槍を持ったまま、俯いている。呼吸のリズムが普段よりもずっと長い。深呼吸を繰り返して集中を高めようとしているらしいクロームが突然に身体を揺らしながら咳き込み出す。彼女の咳と同時に、水の膜の厚みが薄くなっていく。案の定、ごうごうと燃えさかる炎の熱が薄くなった水の膜ごしにリボーンとクロームを襲い始める。

「クロームッ」

 槍にすがりつくようになりながらも、クロームは祈るような仕草で幻術を維持しようと苦しげに咳をこらえながら唇を引き結ぶ。リボーンは彼女の肩に触れることしか出来ない。

 燃えさかる紅蓮の炎を目にやきつけながら、リボーンは綱吉が額と両手に灯す死ぬ気の炎を思い出していた。

 彼の炎の美しさは、目の前に燃えさかる炎の彩りをはるかに凌駕している。

 そんなことを思いながら、炎に焼かれて死ぬのならば、それもいいか――などと考えている自分自身へ、リボーンは舌打ちをする。まだ死ぬつもりはない。


 ふいに、クロームが咳き込むのをやめる。次の間、クロームとリボーンとを取り巻いていた水の膜が勢いを増し、半円の直径が倍以上にふくれあがった。クロームが立ち上がっても平気なほどに水のドームの空間が広がり、先ほどまで感じていた熱波の気配が消失する。

 大丈夫か?――とリボーンが声をかける前に、クロームがすぅっと顔をあげてリボーンを見た。たった今まで苦しげに呼吸をしていた『彼女』はもう『そこ』にはいなかった。


「――お困りのようですね」


 炎上する劇場を背景に、アルカイックな微笑を口元へ浮かべ、『彼』はクロームの顔で言う。他人の身体へ憑依できる存在を、リボーンはたった一人だけしか知らない。


「――おまえ、生きてたのか?」


 クロームの声音のままで、『彼』――六道骸は特徴的な含み笑いをした。


「この世に未練ばかりあるので、なかなか死ねないんですよ。残念なことに」


 呆然とするリボーンの目の前で、骸はクロームの身体を見下ろして、呆れたような顔でため息をついた。


「ああ。クロームにこんな怪我をさせて。あなた、綱吉くんに怒られますよ」

「ここで死ななきゃ、怒られるだろうな」


 立ち上がった『骸』は、槍を持っていない方の手でクロームの服についた埃などを払った。リボーンはその動作を黙って見守っていた。彼が次に言う言葉をリボーンはすでに予測していた。だから黙って、骸の――、クロームの美しい瞳がリボーンを見据えるのを待った。

 『骸』は愉悦に満ちた顔で微笑をし、床の上に跪いているリボーンを見下ろす。


「助けて欲しいですか?」


「おまえがオレを助けてくれるのか?」


「さて。どうしましょうか。正直なところ、僕はあなたが死んでくれた方が喜ばしいでんですよ」


「オレが死んだらツナは悲しむぞ」


「彼は僕が死んだとしても悲しみます」


 微笑を崩さない『骸』の胸元へ銃口を向け、リボーンは挑戦的な笑みを唇にのせる。


「そうか。なら、おまえはクロームも殺すのか?」


 リボーンの言葉に『骸』が多少、驚いたように目を見開く。そうしたあとで、彼はクロームの顔で不機嫌そうに舌打ちする。

「気でも狂いましたか?」

「これは駆け引きだ」

「駆け引き? 脅しの間違いでしょう?」

 嘲るように『骸』が笑う。
 リボーンは銃口を下ろさずに答える。

「オレの命を助けたくないのならば、クロームの命を救えばいいだろ?」

「なんですか? それ」

「へりくつが大好きなおまえのために、提案してやってんだ。分かるだろ? ひねくれ者」


 『骸』が素直にリボーンを助けたくないのならば、
 クロームの生命をリボーンの銃口から救うために、
 リボーンを助ければいいだろう。

 リボーンの言葉を理解したのか、骸は盛大に声をたてて笑った。愉快そうに笑った彼は槍をもたない手を胸元に添えた。


「ああ、そうですね。……僕にとっては、あなたの生命よりも、この子の生命のほうがとてもとても大事です。かけがえのない、可愛い僕のクロームですからね。あぁ、仕方がありません。クロームのついでにあなたも助けるとしましょう」


 頷きながら『骸』が両手で槍を構える。相変わらず、ものすごい勢いで劇場内が燃えさかっているというのに、『骸』が作り出した水の膜の内側の世界は平穏そのものだった。

 両手で槍を構えた『骸』は、立ち上がったリボーンの胸元へ槍の切っ先を向けてきた。敵意や殺意は今は感じられない。銀色の切っ先を一瞥してから、リボーンは『骸』を見た。彼は楽しそうな顔をして、双眸を細めた。


「ねえ、リボーン。言ってくれませんか? 『助けてくれ』と」


「わざわざ言葉にするようなことか?」


「そりゃあ、人に頼み事をするんですから。言葉にするべきことでしょう?」


「そんな台詞をお前に言うなんて最悪だぞ」


「あのね、最悪って……。死にかけの身体でかけつけてきた人間にいう台詞ですか……」


「人間? おまえ、人間だったのか?」


 わざとらしくリボーンが片眉をはねあげると、
 『骸』は妙に微笑んだままで、槍の切っ先を天井側へ向けて、顔を右へかたむけた。


「さあ、どうでしょう? 誰も教えてはくれないんですけれど――、僕は人間なんでしょうか?」


 ぐるりと瞳を回転させ、『骸』がおどけるように両腕をひろげる。容姿はクローム・髑髏のものでも、喋り方や仕草が『六道骸』そのものすぎて、不気味さがさらに増す。
 
リボーンは彼に悟られないように、片目を細め、短く息を吐いた。

 六道骸が沢田綱吉の敵でなく、味方となって存在していることが奇跡のように思える。
 彼がもし、揺らぐことなく、綱吉の敵であり続けたとすれば、おそらく綱吉は骸に負けてしまうだろう。彼の暗黒面を綱吉は理解することができず、骸のどす黒い闇からの影響を受けてしまうだろう。骸と敵対しながらも、綱吉は狂っていくに違いない。それだけの異様さが六道骸にはあった。人間のあらゆる害意や悪意を当然のことのように内包し、罪悪の意識などないままに相手を蹂躙して破壊する――ことを骸は呼吸をするように出来るに違いなかった。

 綱吉がリボーンのことを望んでいるからこそ、骸はリボーンのことを殺さないだけだ。綱吉が感づかないような方法があれば、骸は躊躇いもなくリボーンを殺害するに違いない。そしてリボーンを失った悲しみにくれる綱吉に、「可哀想に。綱吉くん。泣かないでください。僕が側にいます」――などと言いながら綱吉の肩を抱くのだろう。

 本当に苛立つ相手だ。
 ちりちりと心が焦げていく。
 これから先も、綱吉と骸の絆は途切れないだろう。

 綱吉が一番最初に戦った相手であり、そして綱吉を守るためにすべてを捧げている骸を――、綱吉は無自覚に特別扱いしていることをきっと知らない。リボーンがどんなに望もうとも、彼と彼を繋いでいる糸はこんがらがってしまっていて解けそうにない。すでに幾度か振りほどこうとして、さらにややこしく絡まってしまったことがあったほどだ。

 だがしかし、骸の視点から見れば、リボーンと綱吉の絆ほど憎々しいものはないのではないだろうか、とも思う。綱吉と愛し合うような道をたとえたどらなくても、リボーンは彼との絆は生涯続くものだと感じていた。綱吉と生涯を共にすると決めた日から、リボーンと綱吉とを繋ぐ絆は途切れる事はない。死すら、二人を引き離すことはできないだろう。綱吉に対して歪んだ愛情を抱えている骸にとってはこれ以上ないくらいに苛立たしい絆に違いない。


 忌々しいのは、お互い様か。


 息を吐いて、彼への様々な感情を丸めて無理矢理に深層へ押し込み、リボーンは一番外側の表層に強気な笑みをのせた。



「オレを助けろ。そうすりゃ、ツナが大喜びするぞ」



 リボーンが片目を細めて言うと、『骸』は両手で水平に槍を構えると、皮肉っぽく笑ってリボーンを睨み付けた。



「ああ、正直かなり腹が立ちますけれど――、綱吉くんが大喜びするのなら仕方がありませんね」



 身体の前で水平に槍を構えた『骸』が目を閉じる。

 リボーンは強い幻覚のせいで肌があわだつのを感じながら、炎の色合いを反射させてきらめきながら水流が勢いを増していくのを眺めていた。