骸からの報告を聞いた綱吉は、安堵のためか眠気を覚え、二人が退室したあとも、ベッドに横になって眠ってしまった。眠る前にサイドボードのうえの飾り時計を確認すると、針は五時をすぎたあたりだった。


 次に目を覚ましたとき、部屋のカーテンは誰かの手によってしめられ、室内は暗くなっていた。カーテンの隙間からわずかに明るい光が差し込んできている。まだ早朝のせいか、鳥の鳴き声が聞こえるほどに、辺りは静まりかえっていた。時計を確認すると、六時すこし前だった。いつもは七時に起床する予定なので多少は早起きしたことになる。

 綱吉は久々に何も考えずに眠ることができた。すっきりとした目覚めだった。ベッドサイドにおかれたルームランプに手をのばして、明かりをつけた。突然の明かりの眩しさに目をほそめながら、ベッドから両足をおろして、スリッパをはいて立ち上がる。長時間、横になっていたためにかたまってしまった身体のために、両腕を頭上に掲げて背筋を伸ばす。ゆっくりと一通りの柔軟をしても残るだるさは、昨夜の激しい情事のせいである。だるさの残る腰に手を当てて首を回していると、背後で扉が開く音がする。


 振り向くと、新聞を片手に驚いて立ち止まっているリボーンと目があった。思わず綱吉は彼と向き合うように立ち位置をなおし、両手を腹部の辺りで組んだ。


 リボーンは気を取り直したように息をつき、開きっぱなしだったドアを閉めて、綱吉に近づいてくる。全身に冷たい緊張が行き渡っていくのを感じながら、綱吉は無表情のままで目の前に立ったリボーンを見下ろした。


「起きたのか」

「……うん」

「少し前に話をしようと思って来たんだが、まだ寝てるようだったから、新聞でも読んで待とうかと思ってたんだがな」


 片手に持った新聞を振ったあと、リボーンは新聞をベッド脇のサイドボードの上に放り投げた。

 きれいなアーモンド型の目が綱吉を見上げてくる。小綺麗で幼い顔とはちぐはぐな、鋭く貫くような眼差しがうかべられている。綱吉は無意識にうしろへ動こうとする右足をすんでの所でくいとめる。


「おまえ、骸に――」

「ごめん!」

 綱吉は深々と頭を下げる。目線の先にはリボーンのよく磨かれた革靴しか映らなくなる。

「本当にごめんなさい。オレ、もう、自分で終わらせらんなくって、骸になんか頼んだら、リボーン、すごい怒るの分かってたんだけど、どうしても、……どうしてもリボーンの本当の気持ち、知りたくって、骸に頼んじゃったんだ。ごめんなさい。試すような真似して、ごめんなさい」

 綱吉の下げた頭の上から、ため息が落ちてくる。体温が下がるような錯覚がした。

「もう、いい。済んじまったことだ」

 綱吉は顔をあげ、神よりも死神に近いであろう彼に、祈りを捧げるように胸の前で手を組む。不安と焦燥のせいで綱吉は涙腺が弱まりそうなのを自覚し、必死に目元に力をいれる。


「オレ、リボーンのこと、好きだよ。大好きなんだ。オレ、おまえと一緒にいたいんだ。そのためになら、どんな努力だってするから。おまえに頼らないようにオレ一人でがんばれるようになるから。だから、オレのことが心配だからって、オレから離れてかないでね? そんなこと考える前に、オレに言ってね?」

 リボーンが呆れるように細長く息をつく。小さな肩がわずかに下がった。黒い瞳が緊張で硬直している綱吉を見上げる。

「お前は手の内見せすぎだ」

「だって……! 言わないと伝わんないだろ」

 言い終わった刹那。
 リボーンが綱吉が今まで見たこともない、穏やかな顔でほころぶように笑った。

 それだけで綱吉は胸が苦しくなり、息がつまりそうになる。腕を伸ばして抱きしめてしまいたい衝動を抑えながら、綱吉は微笑するリボーンの言葉を待つ。綱吉の組んだ両手はわずかに震えていた。 

「なあ、ツナ。オレはおまえを駄目にするぞ」

「え? なに、それ?」

「言っとくがオレは優秀だ。もっと身体的に成長すれば、さらにオレの可能性は広がるだろう。そんなオレがな、全力でおまえを甘やかしちまえば、おまえはもう駄目になる、絶対に。オレはそれが許せない」

「許せないって……、だから離れるって言ってたの?」

「オレはおまえを駄目にしたくない」

こらえきれない愛しさに任せて、綱吉はリボーンの小柄な身体をかき抱いた。腕のなかに収まってしまう小さな身体をつよく抱きしめ、背中を丸めて彼の首筋に顔をうずめる。彼の白い頬に頬を寄せて目を閉じる。

「リボーン。リボーン。リボーン」

 絨毯に膝をついて、彼の前にひざまずく。リボーンは照れくささを濁すようにすこし不機嫌そうに眉を寄せている。彼の肩に手をおいたまま、綱吉は続ける。 

「オレを愛して。それだけでいいよ。他はもうなにもいらないから。それだけでオレはいくらだって強くなれるんだからさ」

「オレの愛は重いぞ。束縛も独占欲も強いぞ。自分勝手だしすぐに手がでるぞ」

「知ってるよ。長いつきあいだもの」

「おまえを泣かすぞ」

「キスして抱きしめてくれるなら許すよ」

 泣き笑いのようになっていた綱吉の唇に、リボーンの小さな唇が寄せられる。子供同士が交わすようなキスを何度も繰り返す。綱吉はリボーンの細い身体に腕を回して、彼の身体を逃がさないように抱きしめる。華奢な肩に頭をあずけ、綱吉は呟く。

「リボーン。大きくなったよね」

「馬鹿にしてんのか」

「違うよ。――どんどん、追いつかれちゃうなあ、ってこと」

「すぐにおまえなんて追い抜いてやるさ」

「期待してますよ、センセ」

 不敵に笑ったリボーンの右手が、綱吉の首筋に伸ばされる。そこにはまだ包帯が巻かれている。リボーンの指先が慈しむように包帯をなでる。

「痛まねーのか?」

「首の怪我はもうかなり前だし、そんなには。それよりも、拉致されたときの薬のせいなのか、身体のぎこちない感じのがひどいかな」

「悪かったな、昨日は無理をさせて」

「え、あ――」

「お詫びに、優しくしてやるよ」

「え、へ?」

 ふいに綱吉はリボーンの手で突き飛ばされる。よろめいた綱吉は柔らかいベッドのうえに仰向けに倒れ込んだ。抵抗する間もなく、ボルサリーノをその辺へ放ったリボーンが綱吉の身体のうえに覆い被さってくる。とっさのことに綱吉が動きを止めると、彼は片手で綱吉のネクタイを器用にゆるめ、シャツのボタンをはずしていく。露出した鎖骨のあたりに顔を寄せた彼は、包帯と肌の境目のあたりに舌をはわせる。思わず綱吉は息をつめる。生暖かい舌は、ねっとりと鎖骨のあたりを這い回る。二人が動くたびに、ベッドが軋んだ音をたてた。シーツや洋服がこすれあって、これからの情事の予感を確かにしていく。激しく高鳴っていく心音を感じながら、綱吉は天井を向いて、あがりそうになる声を必死におさえた。

「――ねぇ、ちょっと、くすぐ、ったい、よ!」

「雰囲気くずすな」

「むらむらしたの?」

「した」

「あはっ、正直」

 ネクタイを掴まれて強く引かれ、綱吉は上向いていた顔を乱暴に引き寄せられる。リボーンの鼻と綱吉の鼻が触れ合う。

 ああ、好きな顔だなぁ。
 ぼんやりと綱吉は思う。

 この顔、この声、この唇、この手が、この身体が――綱吉を愛するというのなら。
 綱吉は何を壊し、何を殺してでも手に入れることができるかもしれない。


「エロい顔すんな、バカツナ」


 リボーンは赤い舌で綱吉の唇の脇を嘗めた。彼のキスが欲しくて綱吉は自身の唇を舌で嘗める。煽られたのか、リボーンはつられたように舌で唇を嘗めて、妖艶に濡れた唇で笑う。

「オレの愛が欲しいか、ツナ」
「欲しいよ。おまえのすべてが欲しい。オレを愛して。リボーン」

 リボーンの唇と。
 綱吉の唇が引き合うように近づいた瞬間、


「えーと」


 間延びした男の声がした。



 綱吉とリボーンは、姿勢もそのままで、声のしたドア側へと視線を向ける。



 両手を顔の脇に持ち上げたディーノが、開かれたドアによりかかるようにして立っていた。顔は引きつり、視線は明後日のほうを向いている。

 直感的に嫌な気配を感じて、綱吉はリボーンの両手を掴んだ。案の定、拳銃を取り出そうとしていたのか、彼は綱吉によって拘束された手をみて舌打ちした。リボーンは綱吉の手を振り払うことはせずに、視線だけで射殺せるくらいの殺気を含んでディーノを睨んだ。


「死にてぇのか。てめえ」


 あまりに低い声に、綱吉は背筋に冷たいものがはしる。これはかつての教え子としての条件反射かもしれない。ディーノも似たような恐れを感じたのか、張り付いたような笑顔をうかべて両手を顔の横で振る。

「ノックはしたんだぞー、気づかないお前らがわりぃ」

 リボーンが綱吉のうえから退こうとする。とっさに綱吉は彼の手を握ったままで問いかける。

「撃たないよな?」

「……撃たねーよ」

 不機嫌そうに呟いたリボーンを一応は信じて、綱吉は握っていた彼の腕を解いた。リボーンはベッドから降りて立つと、ディーノを睨み直した。

 綱吉ははだけていた襟元を適当にととのえ、ベッドの上で上半身を起こしてディーノと対峙する。情事を見られたことによる羞恥心は多少あれど、もうすでに綱吉もディーノも大人なので、取り乱したりはしない。少しだけ過ぎていった年月を思い出し、綱吉は人知れず心の中が温かくなるのを感じた。

 怒気をはらんだリボーンから視線を外したディーノは、綱吉と視線があうと、優しく微笑んだ。綱吉は反射的にディーノに微笑みをかえす。すぐ横でリボーンの舌打ちがきこえた。

「こんな早朝から何の用なんだ? おまえ、酔っぱらってねーか?」

「あー、分かるか? さっきまで飲んでたからなあ……」

「酔っぱらいの戯れ言なんぞ聞きたかねーぞ」

「まぁまぁ、そんなに邪険にするなって。朗報は早いほうがいいだろうって思ったから、こうして老人共とのパーティから直行してきたんだろう? ――ツナに対するバッシングに関することだけど、これからは上のやつらが圧力かけてくれるっていうから安心しろ。他のファミリィたちも不穏な動きなんてしねぇように見張ってくれるってよ」

「あん? クソジジイどもに何を言いやがったんだ」

「まあ、オレの人脈と人柄をなめんなよ、とでも言っておくかな」

「――お綺麗な顔でたらしこんだわけか」

「ちょっと、リボーン、言い過ぎ――」

「いいんだ。こいつは自分の顔が利用出来るって知ってて利用してる奴なんだ。性格が悪ぃんだ」

「おいおい、性格の悪さについてなんて、お前に言われたかねぇな。リボーン」

 リボーンをかるく睨んだあと、ディーノは右手の指を拳銃のように形づくると、指先をリボーンに向けて、皮肉っぽく片目を閉じる。

「一瞬で二十人以上を皆殺しにするヒットマンのご機嫌をとっておかないと、我々は殲滅されてしまいますよ。と耳元で囁いただけだよ。いやあ、おまえ、腕前だんだんとまたあがってきてるんじゃないのか?」

「うるせえ。報告なんて終わったろ? 消えろ、ディーノ」

 冷たく言い放つリボーンに対して肩をすくめて、ディーノは綱吉を見た。 年を重ねても衰えることない美貌に惜しげもなく微笑をうかべ、ディーノは優しく言う。

「ツナ。だからな、おまえは胸はってろ。そのガキが好きだっておまえの気持ちを正々堂々貫きとおせ。ガキのころから、そういうのは得意だったろ? なあ、ツナ」

「……ありがとうございます。ディーノさん。そのうち必ず、ディナーをごちそうしますから。予定、あけておいてください」

「ああ、連絡待ってるぜ」

「失せろ、跳ね馬」

「リボーンが嫌んなったらオレんとこおいで。幸せにしてやるから」

 綱吉が何かを言う前に火薬の爆ぜる音が響く。突然の音に首をすくめて目を閉じた綱吉がおそるおそる目を開けると、硝煙がたちのぼる拳銃を握るリボーンと、とっさに立ち位置をずらして床に伏せているディーノの姿が映った。冷たいものを浴びたように綱吉の身体は震える。

「撃つなよ!」

「ちっ」

 忌々しげに銃弾から逃げおおせたディーノを睨み、リボーンは銃をしまう。ディーノは姿勢よく立ち直し、リボーンを指さす。

「おまえにも借りなんだってこと、分かってるだろうな、リボーン。あとで報酬について話し合おうぜ」

「さっさと帰れ、キャバッローネ」

「ちょっと、リボーン。ディーノさんに失礼だろ!」

「――本当だよなあ。俺、お前らのために頑張ってやったのに」

「頼んじゃいねー」

「そうそう。お前ってそういう奴だよな。まったく……」

 片手を額にあてて天井を見上げたあと、ディーノは気を取り直したように明るく笑った。

「ま。とりあえず報告は終わり!! お楽しみ邪魔して悪かったなぁ。続きどうぞ」

「き・え・ろ」

「はいはい。じゃあなぁ、ツナ!」

「いろいろありがとうございました。ディーノさん」

 右手をあげて綱吉の言葉に応え、ディーノは部屋から出ていった。隣に立つリボーンへ視線を向けてみれば、彼は不機嫌そうに顔をゆがめたまま、憎々しげにドアを睨んでいる。

「……ディーノさんとリボーンって、こんなに仲悪かったっけ?」

「あいつは油断のならねえガキだ」

「ガキって、お前のほうがガキだろうに」

「笑うな」


 綱吉はひとしきり笑ったあと、リボーンのスーツの裾を握る。


「あー、……あの、さ」
「あん?」

 綱吉の隣に座った彼は、綺麗な闇色の瞳で綱吉を見る。小綺麗に整った顔立ちを眺め、綱吉は普段はボルサリーノによって隠されている彼の傷一つない額に唇を寄せる。目閉じたリボーンはキスを受け入れてくれる。指先にまで歓喜が行き渡るまで時間はかからない。


「オレを愛してくれるんだよね?」

「愛して欲しいんだろ?」

「うん」

「いい返事だ」

 綱吉がうなずくと、リボーンは下唇を舌で舐める。一度体験した快感が思い出され、綱吉は身体が震えそうになった。

「おまえ、オレに抱かれたいのか? それとも抱きたいのか?」

「え、なに、急に?」

「昨日は無理矢理だったからな。今日は特別サービスしてやるよ。どっちがいい?」

「え、ええ?」

「なんだよ、不服か?」

「いえ! 滅相もない!! ちょっと、幸せすぎてめまいがしただけ」

 勢いよく首を振ったあと、綱吉はしどろもどろに小さな声で訴えた。

「オレはどっちでもいいよ。リボーンが好きな方で」

「じゃあ、抱かれろ」

「うん」

 綱吉は嬉しくて思い切り笑って頷いた。


 次の間、リボーンはかるく目を見開いたあと、うなだれたように顔を伏せ、深く静かに息を吐いた。何かやってしまったのかと動揺した綱吉は彼の肩に手を伸ばす。


「ど、どうかした? やっぱ、やだ?」

「――あきれてものが言えなくなる日がくるとはな」

「は? どゆこと?」


 首を傾げる綱吉の両手をとって、リボーンは苦笑する。


「お前の素直さに、オレはいつだって振り回されてんだよ」


 あっという間にベッドの上に倒された綱吉の唇が、リボーンの唇によってふさがれる。互いを求めてやまないキスを深く何度も繰り返す。着ている服がもどかしいほどに邪魔に思えた。綱吉はリボーンのスーツの襟元に手を伸ばし、適当に彼の服を脱がしにかかる。リボーンは綱吉がリボーンのネクタイを外し、ワイシャツの第二ボタンに手を掛けている間に、きれいに綱吉のシャツのボタンを片手で外し終えていた。

 リボーンの冷たいてのひらが綱吉の胸に置かれる。綱吉の呼吸にあわせて、リボーンの手もわずかに上下した。


「お望みのままに愛してやるよ。ご主人様」


 綱吉は両手でリボーンの頬を包む。彼は目を伏せて、綱吉の右手に頬をすりよせるようにする。あまりの幸福感に綱吉は自然と笑い出してしまう。


「好きに愛してくれていいよ。愛しのヒットマン」


 リボーンは綱吉の言葉が染みていくのを感じるかのようにしばらく動かなかった。やがて時が経ち、まぶたを持ち上げたリボーンは、綱吉の顔に顔を近づけた。間近で二人は見つめ合う。


「リボーン」

「あん?」

「もう一人で決めないでね?」

「――ああ」

「オレはおまえがいないと駄目なんだから」

 リボーンは鼻で笑い、おどけるように嘆息した。

「オレも、お前がいなきゃ駄目みてーだしな。仕方ねーから一緒にいるしかねーな」

 綱吉は両手をリボーンの背中に回した。彼の背中はまだ小さいが、背負ってきた運命の重さは綱吉とは比べものにならない。

「オレはさ、お前とならどんなに追われようとも逃避行したって構わないよ」

「ふん。それはできねーだろ、なぁ、ドン・ボンゴレ」

「ちぇ……。お前はほんとにずるい男だよ」

「ずるい男は嫌いか?」

「――あー、はいはい。愛してますよ。好きですよ。だからね、オレを捨てんのだけはやめろよな」

「捨てたりしねーぞ。オレを信じろ、ツナ」

「もうだいぶ前から信じてんだけどね、オレは」

「悪かった。今度からはおまえを信じる」

 綱吉がうらめしそうにのしかかっているリボーンを見上げると、彼は彼らしくない真摯な態度で微笑する。

「オレはどこにも行かない。生涯、お前と共に在る。それをいまここで誓う」

「――気障」

 思わず綱吉が吹き出すと、リボーンは片目を細めた。

「気障な男は――」

「好き、好きだって」

「だろう? さぁ、いい加減、お喋りは終わりにしようぜ、ツナ」

「そうだね。愛してくれるんだもんな。――どうぞ、好きなようにすれば?」

 綱吉とリボーンは互いに微笑みあうと、惹かれあうように顔を近づけてキスをした。甘い恋人同士のキスをしながら、二人は互いの服を脱がしにかかる。

 室内には服を脱ぐ衣擦れの音と軋むベッドの音、二人の息づかいがあらく室内に満ち始める。


 カーテンの隙間からのぞく朝日に気が付くことなく、二人は行為に没頭していった。




×××××


 その日のドン・ボンゴレの仕事は、ディーノの忠告によってすべてキャンセルされ、二人が閉じこもった部屋には誰一人として近づく者はいなかった。 

 ボンゴレの六人の守護者たちは、それぞれに思惑を抱えながらも、急な仕事内容の変更に追われ、一日を過ごすしかなかった。

 数日後、ドン・ボンゴレと伝説のヒットマンが結ばれたという噂は風のごとく広まった。しかし、ヒットマンの報復を恐れているのか、表だって騒ぎ立てる者は誰一人しておらず、ただの情報として闇の世界に静かに沈殿していくばかりだった。







 
喪失の恐怖にかられていた青年は、少年の気持ちを知った今、自己の成長を心に決めた。
愛に翻弄される事に耐えられなかった少年は、無様になろうとも愛を受け入れる事を選んだ

互いの気持ちを確認しあった二人に恐れるものなどなにもない。



かつて色を無くした世界を彷徨っていた彼らの世界は、



いま鮮やかに色づいた。

















おまえと手を取り合って踊ろう
破滅の髪飾りと再生の華を胸に飾って
血と銃弾が飛び交う世界で踊ろう

死の舞踏であろうと
おまえがいるのなら
恐れることはないさ

神さえも 悪魔さえも
ふたりを別つことなど
できやしないのだから
おまえとふたり手を繋いで
額を寄せ合ってキスをして
世界のすべてを敵にしても
馬鹿みたいに笑っていよう

ラストダンスの相手はおまえがいい

おまえじゃなきゃ 意味はない




【END】