「雲雀さん!」


「――なに?」


「なに?じゃなくて、け、け、怪我! 怪我したって!」


「……したけど、それがどうかした?」


「なんでそんなに冷静なんですか! か、顔! 顔に切り傷だなんて、あ、ああ……! そんな、雲雀さんの顔に、傷が……!」


「落ち着いたら?」


「落ち着けませんっ! ああ、もう、最悪! 目が傷つかなくてよかったけど、頬から顎にかけてだなんて目立つじゃないですか!! 顔に、雲雀さんの顔に傷痕でも残ったら、オレ、もう、もう――!」


「………ふぅん………」


「……なに、か?」


「そうだったんだ、へぇ」


「え。なんです、その棒読みな感じの台詞は――」


「綱吉は僕の顔が目当てだったんだ」


「ちょ! 違います!!」


「傷が残ったら僕に価値はないんだ。僕は君に捨てられるのかな?」


「違います違います! 捨てませんって!」


「……僕の顔以外で好きなところ、言って」


「うっ……。ご、ごめんなさい。なにげに、怒ってます、ね、雲雀さん……」


「言って」


「うー、えーと……。――ぜんぶ、好きですよ」


「………………」


「嘘じゃないですよ! 面倒だからとかでもないですからね! 雲雀さんの顔も声も髪も手も足も、なにもかも全部、好きなんですっ。だから、雲雀さんが傷ついたり、雲雀さんに傷痕が残ったりするの、オレ、すごい哀しいし、悔しいんですよ……」


「たとえ、僕の顔に傷痕が残ろうとも、『僕自身』は傷つかない」


「ええ、……それは分かってるんですけど、やっぱり、傷痕は残って欲しくありません」



「分かった。傷痕が残るようなら死ぬ気でドクターに治させるよ」


「……我が儘を言ってすみません……」


「いいよ。綱吉の我が儘なら僕はいくらでも引き受けるから」



「傷、痛みませんか?」


「鎮痛剤が効いてるから痛みはないよ。――ああ、でも」


「はい?」


「綱吉がキスしてくれたらもっと痛みを感じなくなるかもしれない」


「……なに、言ってるんですか、もう……っ」


「駄目なの?」


「うっ……、いい、ですよ。――すこし屈んでくれますか?」


「――これでいい?」


 雲雀は背中を丸めて目を閉じる。

 美しく愛しい恋人の顔に傷痕が残らないように祈りながら。

 綱吉は分厚いガーゼに包まれた雲雀の頬に唇を寄せた。


『自分自身の容姿に無頓着な雲と雲のすべてを溺愛している大空、深夜零時過ぎの大騒ぎ』