「――ろ、骸?」


「え」


「聞いてなかったの?」


「ああ、すいません。綱吉くん」


「やっぱり、辛いんじゃないのか? 無理についてこなくてもいいよ。同盟のボスの葬儀中の護衛だなんて、おまえには――」


「何を言うんですか。よけいな気遣いは無用ですよ。それにまだイタリア語が不自由なのだから、僕が同行しなくてどうしますか?」


「イタリア語なら獄寺くんが――」


「スモーキンボムはリボーンと一緒に出張中なの、忘れてますか?」


「……だって、おまえ、気分が悪そうだ……」


「大丈夫ですよ。それよりも、もっとしゃんとしていてくださいね。イタリアに来てまだ二ヶ月しか経ってませんし、公の場には初めて参加されるんですから、注目されますよ。ボンゴレの時期ボスとして、多くの人間があなたを品定めしようとしてますよ」


「プレッシャー、かけるなよ。……ただでさえ、緊張してるってのに……」


「気負うことはありません。あなたはあなたでいればいいんですよ」

「――どんなふうに?」

「そのままのあなたが、いちばん魅力的です」

「……なにそれ。口説いてるの?」

「いいえ。大真面目です。あなたがあなただから、僕はあなたの前に跪き、あなたに隷属することを選んだんですから」

「隷属、って」

「あなたに敗北したあの日から僕は変わりました。良いようにも悪いようにも。それが僕にとって終わりと始まりでした。あなたがあなたでいられるように、僕はどんな努力も惜しみません」


「どうして、そんなにオレに尽くすの? オレ、骸になにもしていないのに――」


「あなたは勝者、僕は敗者。敗者が勝者に服従することに疑問でも?」


「勝者とか敗者とか、そんなことはもうずっと昔のことだろ。オレはさ、守護者になったおまえのことを、かなり前から信頼してるんだよ? 分かってる?」


「この僕を信頼ですか?」


「うん。頼りになると思ってるよ。……おまえが非道なことをした過去は変えられないけど、これからはオレがいるから。おまえがまた悪に染まろうとしたら、絶対にオレの手で引き戻してやるから――」


「……ハァ……。どこまでも愚かな人ですね……」


「え、オレ、呆れられるようなこと、言った?」


「ほら、鐘がなっています。こんなところをうろうろしていないで、そろそろ教会に向かいましょう。葬儀が始まってしまいます。」


「あ、なんか、はぐらかしたな。オレ、結構、良いこと言ってたと思ったんだけどなあ」


「良いこと言ってましたけれど、でも、ボンゴレ――」

「うん? ――ぅ、むぐ、っ、んー! ぷ、は!」


「こんな僕でも信頼してくれますか?」


「むーくーろー!!!」


「ボンゴレのキスのおかげで元気が出てきました。これならマフィアの中にいることになっても耐えられそうです。ありがとうございます」


「勝手にキスしておいて、その言動かよっ!」


「さ、行きましょう」


「――くそっ、わかってるよ、行くよ!」


『雨が降りそうな空模様の下、かつての勝者は赤面した顔で舌打ちし、かつての敗者は己の揺るぎなき居場所―彼の隣―を歩きながら微笑した』