「寝てんじゃねー」

「イッテエ! ……あのね、オレね、一昨日の夜から寝てないの、もう限界なの、寝かせてよ、頼むよ」

「駄目だ。だいたい、書類をしまっちまって忘れてたのはどこのどいつだ? え? 大事な商談に間に合わねーなんてことになったら、久々に死ぬ気にでもなってもらうからな」

「えー! この年でトランクス一枚になるの、オレ!? ひぃいいぃぃ、ちょ、目ぇさめた、ばっちりさめた!」

「よし」

「……うう、眠い、つらい、くるしい」

「誤字しやがったら愛のムチだ」

「なに、その鞭」

「ディーノからもらった」

「……よ、よけいなことを――!」

「ああん?」

「イイエ、ずいぶんと、お似合いで!」

「おまえも似合うと思うがな」

「え、オレ? オレ、鞭の才能はないと思うけどなあ」

「おまえは昔っからもやしっ子だったからな、白い肌には鞭打ったあとがよく映える」

「ひぃいい! それ、セクハラ! ガキの台詞じゃないから、ヒワイすぎるからああ!」

「嫌だったら、死ぬ気で書類を終わらせろ。――そうだな、あと二時間で終わらせろ」

「ちょ! 二時間はキツ――!」

「なんか言ったか?」

「イイエ、なにも。とりあえず、振り上げた鞭、おろしてくれない? 落ち着かない」

「ほんと、おまえはいい顔するよな」

「なにそれ」

「いいから手ぇ動かせ」

「はいはい――ッテエ!!」

「『はい』は一回」

「……はい……」

「泣くなよ、よけい興奮すっから」

「リボーン、さん」

「あん?」

「……顔が凶悪になってマス、よ」

「もともとこういう顔だ」

「左様でございますか……」

「さっさとやれ」

「……ディーノさんの馬鹿……。こいつに鞭なんて似合いすぎて怖いっての……」

「なんか言ったか?」

「イイエ!」

「書類がよく出来てたら仮眠させてやる」

「マジで!?」

「オレの添い寝つきでな」

「……マジ、で?」

「キスもしてやるさ」


「……なんか、もう……、まさに――」

「飴と鞭、だろ?」


「……ずるいやつ……」



『右手に鞭を左手には愛をもって微笑む殺し屋と寝不足なボスの、とある夜明けごろ』